
「生前贈与をたくさん受けている兄弟がいるのに、遺産分割で調整されないのはおかしいと感じている。」
「親の介護はほとんど自分がやってきたのに、相続の取り分は兄弟と同じと言われた。」
「長男夫婦が家を建ててもらっているのに、その分を差し引かずに遺産を分けるのは不公平では?」
相続の現場では、このような「モヤモヤした不公平感」が、家族の関係を一気に悪くしてしまうことがあります。
東京都新宿区の家族信託・相続専門「司法書士シエン」では、司法書士・1級FPとして、多くのご家庭の遺産分割・相続対策のご相談をお受けしてきました。その中でよく使われるのが「特別受益」「寄与分」、そして近年新しくできた「特別寄与料」という3つの仕組みです。
- それぞれが「どんな不公平」を調整する制度なのか
- 誰が使えるのか
- 実際の相続でどう主張していくのか
を、専門用語をかみ砕きながら解説します。
特別受益とは?生前にもらった「先渡し分」をならす仕組み
特別受益のイメージ
特別受益とは、相続人のうち一部の人が生前に特別な贈与を受けている場合に、その分を遺産分割で調整する仕組みです。
代表的な例として、次のようなものがあります。
- 親が長男の自宅購入資金として2,000万円を援助した
- 親が長女の開業資金として1,000万円を出した
- 特定の子どもにだけ、結婚の持参金・高額な学費を負担した
これらは、単なる生活費や一般的な学費とは違い、「将来の相続分を先にもらったようなもの」と評価されやすい贈与です。
ざっくりした計算イメージ
例:相続人は子どもA・Bの2人。
- 相続開始時の遺産:3,000万円
- Aは生前に自宅購入資金2,000万円を受けている(特別受益)
この場合、まず「みなし遺産」として
3,000万円(今ある遺産)+2,000万円(特別受益)=5,000万円を、二人で法定相続分1/2ずつに分けます。
1人あたり 5,000万円 × 1/2 = 2,500万円
Aはすでに2,000万円受け取っているので、残り500万円を相続。
Bは生前贈与がないので、3,000万円のうち2,500万円を受け取る、というイメージです。
特別受益になりやすいもの・なりにくいもの
- 住宅取得資金
- 開業資金・事業資金
- 多額の結婚持参金
- 仕送り・生活費
- 通常の範囲の学費・塾代
- お小遣い
どこまでが「特別」かは、金額・家族の経済状況・他の兄弟とのバランスなどを総合的に見て判断されます。
特別受益にも「10年ルール」がある
ここが重要なポイントですが、特別受益はいつまでも遺産分割で主張できるわけではありません。
民法の改正により、原則として、相続開始(亡くなった日)から10年を過ぎると、特別受益や寄与分を反映した「具体的相続分」による遺産分割は、家庭裁判所に請求できなくなる
というルールができました。
つまり、
- 「昔、兄だけ家を建ててもらっている。その分を考慮してほしい」
- 「長年の介護の分を寄与分として認めてほしい」
といった主張は、相続開始から10年以内に動き出さないと、原則として「法定相続分どおり」で分けるしかなくなる、ということです。
もっとも、
- 10年経過前に家庭裁判所へ遺産分割の申立てをしていた場合
- 相続人全員が合意して「特別受益・寄与分を考慮した分け方」をする場合
などでは、例外的に特別受益を前提にした遺産分割が認められる余地もあります。
ただ、実務上は「10年以内に、協議がまとまらなければ家庭裁判所に申立てをしておく」が安全ラインと考えておくのが現実的です。
寄与分とは?介護や事業手伝いで遺産を「増やした人」の取り分調整
寄与分の目的
寄与分は、相続人の中で特に被相続人の財産の維持・増加に貢献した人の取り分を増やす制度です。
よくあるケースは、
- 長女が親の介護を長年担い、その結果施設費用が節約され遺産が多く残った
- 長男が無給に近い形で家業を手伝い、事業を支えた
- 子どもが自分の財産を出して、親名義の不動産をリフォームし価値を高めた
といった場面です。
寄与分が認められるためのポイント
おおまかには次の3点が重要になります。
- 寄与したのは「相続人」であること
- 被相続人の財産の維持・増加に特別の寄与をしたこと
- その寄与が、通常期待される「親子の扶養義務」を超えるレベルであること
単に同居していた、少し手伝っていた程度では寄与分とは認められにくく、
- 介護の期間・頻度
- 実際に節約できた費用
- どの程度、仕事・生活を犠牲にしたか
などが重視されます。
寄与分にも「10年ルール」がある
特別受益と同じく、寄与分も相続開始から10年を過ぎると、原則として具体的相続分として主張できなくなるという制限があります。
ここで注意したいのは、
- 「10年以内に話し合いを終えればいい」のではなく
- 協議がまとまらない場合には、10年以内に家庭裁判所へ遺産分割の申立てをしておく必要がある
という点です。
10年を過ぎてしまうと、
- 特別受益・寄与分を考慮した「具体的相続分」での分け方は原則できず
- 法定相続分(または遺言で指定された相続分)で分けるしかなくなる
というかなり重い結果になります。
実務上の感覚
「いつか兄弟で話そう」「落ち着いてからゆっくり決めよう」と先延ばしにしていると、知らないうちに10年が経ってしまうことも十分ありえます。
- 介護をしてきた側から見ると「せっかく頑張ったのに報われない」
- 他の相続人から見ると「いきなり10年以上前の話を持ち出されても困る」
というすれ違いを避けるためにも、介護や家業の手伝いが続いている段階から、「将来の遺産分割をどう考えるか」を早めに共有しておくことが大切です。
特別寄与料とは?相続人でない「嫁・婿」を救済する新しい仕組み
なぜ特別寄与料ができたのか
これまでの寄与分は「相続人」にしか認められませんでした。
そのため、
- 長男の妻が10年以上、自宅で義父母を介護してきた
- 長男が先に亡くなり、相続人は孫たちだけ
- しかし、嫁である「長男の妻」はそもそも相続人ではない
という場合、一番頑張った「嫁」が何も受け取れないという不公平が生じていました。
この問題を解決するために、2019年の民法改正で導入されたのが「特別寄与料」です。
特別寄与料の対象者・要件
特別寄与料を請求できる人は、ざっくり言うと、次の条件を満たす「相続人以外の親族」です。
- 被相続人の6親等内の血族、3親等内の姻族
(長男の妻・次男の妻・孫の配偶者などが典型) - 無償で療養看護その他の労務提供をしたこと
(介護、家業の手伝い、長期の付き添いなど) - その結果、被相続人の財産の維持・増加に「特別の寄与」があったこと
ポイントは、お金を渡しただけではなく、“体を使って尽くした”タイプの貢献が対象だということです。
請求の期限はかなり短いので注意
特別寄与料には、厳しい期限(時効・除斥期間)がある点も重要です。
- 相続の開始と相続人を知ったときから「6か月以内」に請求しないと、
→ 相続人が「時効」を主張すれば権利が消えてしまう - また、相続開始から「1年」を過ぎると、そもそも裁判所で請求できなくなる
「あとで落ち着いたら兄弟に話そう」と先送りしていると、気づいたときには権利そのものが失われている、ということになりかねません。
金額はどうやって決まる?
特別寄与料の金額には、明確な「計算式」はありませんが、実務上は次のような要素を組み合わせて検討されます。
- 介護や手伝いの期間(何年・何か月か)
- 1日あたりの介護報酬(5,000〜8,000円程度を目安にすることも多い)
- 親族であることからの減額(0.5〜0.8掛けなど)
- 相続財産の総額
例:
- 1日あたり7,000円相当
- 年250日介護 × 8年 = 2,000日
- 親族であることを考慮して0.6を掛ける
7,000円 × 2,000日 × 0.6 = 約840万円
もちろんこれはあくまで目安で、実際には遺産の総額や他の相続人とのバランスも加味して調整されます。
「特別受益」「寄与分」「特別寄与料」の使い分け
ざっくり整理すると、次のようになります。
特別受益
生前にもらった「大きな贈与」を、相続時に調整する仕組み
- 例:自宅購入資金、開業資金など
- 対象:相続人
相続開始から10年を過ぎると、原則として具体的相続分としては主張できない
寄与分
相続人の中で、財産の維持・増加に特別の貢献をした人の取り分を増やす仕組み
- 例:長年の自宅介護、家業への長期無償従事
- 対象:相続人のみ
こちらも原則として、相続開始から10年を過ぎると具体的相続分として主張できない
特別寄与料
相続人ではない「嫁・婿・親族」が無償で尽くした分を金銭で請求する仕組み
- 例:長男の妻が義父母を10年以上自宅介護した
- 対象:相続人以外の親族(6親等内の血族、3親等内の姻族)
期限は「6か月・1年」とさらに短い
同じ出来事が「寄与分」として評価されるのか、「特別寄与料」となるのかは、
- その人が相続人かどうか
- どの程度の期間・内容の貢献か
- 生前贈与との組み合わせ
などによって変わってきます。
事例でイメージする不公平感の調整パターン
事例1:生前自宅資金をもらった長男がいるケース(特別受益)
東京都新宿区在住のAさん(70代・女性)が亡くなり、相続人は長男と長女の2人。
- 長男は10年前に自宅購入資金として2,000万円の援助を受けている
- 長女には特別な贈与はない
この場合、長女からすると「お兄ちゃんは2,000万円もらっているのに、遺産は半分ずつ?」という不満が出やすいケースです。
ここでは、先ほどの特別受益の考え方で「みなし遺産」を計算し、長男の生前贈与分を踏まえて取り分を調整していくことになります。
事例2:長女だけが親の介護を続けてきたケース(寄与分)
中野区在住のBさん(50代・女性)は、10年間ほぼ毎日、実家で一人暮らしの母を介護してきました。
- 仕事をパートに切り替え、介護の時間を確保
- 介護施設に入所していれば年間300万円はかかったと見込まれる
- その結果、母の預金が多く残っている
兄弟は他に2人いますが、ほとんど介護には関わっていません。
Bさんとしては「せめて介護を頑張った分、少しでも多く遺産をもらいたい」と感じるのが自然です。ここでは、Bさんは「寄与分」として取り分の増額を主張していくことになります。
事例3:相続人でない長男の妻が介護をしてきたケース(特別寄与料)
千葉県市川市在住のCさん(60代・女性)は、義母と同居し、20年間介護・家事のほとんどを担ってきました。
- 義母は2025年に死亡
- 長男(夫)はすでに他界しており、相続人は孫たち
- Cさん自身は「相続人ではない」
このようなケースでは、旧来の制度だとCさんは何も受け取れませんでした。
現在は、Cさんのような立場の人が「特別寄与者」として特別寄与料を請求できる可能性があります。ただし、相続の開始と相続人を知った時から6か月以内という短い期限があるため、早めに専門家へ相談することが重要です。
トラブルを減らすために今からできること
- 介護や金銭負担の記録を残す
- 介護日誌、通院の記録、交通費・医療費の領収書
- どのくらいの頻度で関わっていたかが分かるメモ
- 生前のうちに話し合いと「形」を整える
- 遺言書で「特別受益」「寄与分」をある程度織り込んでおく
- 家族会議で介護の分担と将来の考え方を共有しておく
- 「10年」「6か月・1年」の期限を意識して、早めに専門家へ相談する
- 特別受益・寄与分は、相続開始から10年を過ぎると原則として具体的相続分として主張できない
- 特別寄与料はさらに短い6か月・1年の期限がある
まとめ
- 生前の大きな贈与の不公平感を調整するのが「特別受益」
- 相続人の中で特に財産を増やした人を報いるのが「寄与分」
- 相続人ではない「嫁・婿」などを救済するのが「特別寄与料」
- 特別受益・寄与分には「相続開始から10年」という時間的な限界がある
同じ「不公平感」のように見えても、
- 何をもらった(お金か、労務か)
- 誰が貢献した(相続人か、相続人以外か)
によって、使うべき制度が変わります。
そして、どの制度も「知っているかどうか」「期限までに動けるか」で結果が大きく変わります。
ご相談のご案内(対面・オンライン対応)
東京都新宿区の家族信託・相続専門「司法書士シエン」では、
- 特別受益・寄与分・特別寄与料の整理
- 遺産分割協議書の作成
- 生前の相続対策(遺言・家族信託・相続コンサルティング)
などを、司法書士×FPの視点からトータルにサポートしています。
新宿・中野など近隣の方はご来所での対面相談を、全国どの地域の方もオンライン(Zoom等)相談をご利用いただけます。
「自分のケースで、特別受益・寄与分・特別寄与料をどう考えればいいのか知りたい」
「兄弟との関係を壊さずに、不公平感だけきちんと整理したい」
という方は、まずは一度お気軽にご相談ください。法律・税務の業際に配慮しつつ、必要に応じて税理士等の専門家とも連携しながら、最適な解決策を一緒に考えていきます。
※本記事の「10年ルール」等の説明は、改正民法904条の3およびその解説・実務記事に基づき簡略化して記載しています。