
「相続人の一人と何年も連絡が取れていない」「海外に行ったきり消息不明で、遺産分割の話し合いが進まない」──そんなご相談が近年とても増えています。
相続人が一人でも欠けていると、原則として遺産分割協議を進めることはできません。それでも、他の相続人の生活や納税の期限は待ってくれません。
東京都新宿区の家族信託・相続専門事務所「司法書士シエン」では、行方不明の相続人がいるケースでの不在者財産管理人の活用や、実務上の進め方について、多数のご相談・書類作成のサポートを行っています。
- 行方不明の相続人がいるとき、なぜ話し合いが止まるのか
- 「不在者財産管理人」とは何をする人なのか
- 家庭裁判所への申立てから遺産分割完了までの流れ
- 費用・期間のイメージと、よくある落とし穴
を、順番にわかりやすく解説していきます。
行方不明の相続人がいると、遺産分割はどうなる?
相続が発生したあと、遺産の分け方を決める「遺産分割協議」は、相続人“全員”が参加し、全員が合意することが原則です。
そのため、
- 兄弟姉妹の一人が若い頃に家を出たきり所在不明
- 離婚後に疎遠になった元配偶者との間の子どもと連絡が取れない
- 海外在住で、住所も電話番号もわからない
といった相続人がいる場合、話し合いに呼びたくても呼べず、協議書にも実印をもらえません。
「他の兄弟だけで勝手に分けてしまう」という対応をすると、
- 後から行方不明だった相続人が現れて、やり直しを求めてくる
- 不公平な分け方だと主張され、紛争に発展する
- 不動産の名義変更ができず、売却や担保設定が止まる
といった重大なトラブルにつながるおそれがあります。
こうした場合に活用されるのが、「不在者財産管理人」という仕組みです。
本当に「行方不明」かどうかを確認する
いきなり不在者財産管理人の申立てをする前に、「本当に行方不明と言えるのか」をしっかり確認する必要があります。
具体的には、次のような調査を行うのが一般的です。
- 戸籍・住民票・附票などで、最後に把握できる住所を確認する
- 親族や昔の勤務先、友人などに連絡を取り、最新の連絡先を探す
- 手紙(内容証明郵便など)を出し、返送の有無を確認する
- SNSやインターネット検索で、所在の手がかりがないか探る
裁判所に不在者財産管理人を申し立てる際には、「できる限り探したが、それでも連絡が取れない」
ということを説明できる資料や経過が求められます。
この“事前調査”が甘いと、裁判所から追加資料を求められたり、申立て自体を認めてもらえないこともありますので、早い段階で専門家に相談しながら準備することが大切です。
不在者財産管理人とは?
不在者財産管理人とは、長期間所在がわからない人(不在者と呼びます)の財産を保全し、必要に応じて管理・処分する役割を持つ人のことです。
相続の場面では、
- 行方不明の相続人本人に代わって遺産分割協議に参加する
- 相続人全体の利益を損なわない範囲で、協議の合意に加わる
といった重要な役割を担います。ポイントを整理すると、次のとおりです。
- 選任するのは家庭裁判所
- 申立人は、他の相続人など利害関係人
- 管理人には弁護士や司法書士など第三者が選ばれることが多い
- 管理人の報酬や実費は、原則として不在者の財産から支払われる
不在者財産管理人が選任されると、その人が行方不明の相続人の“代理人”として遺産分割協議書に署名押印することができるようになります。
不在者財産管理人選任の手続きの流れ
不在者財産管理人は、家庭裁判所に申立てをして選任してもらいます。
大まかな流れは次のとおりです。
- 被相続人の戸籍一式
- 相続関係説明図
- 行方不明の相続人についての戸籍・住民票の附票など
- これまでの連絡の経緯(手紙の写しなど)
- 不在者の「住所(最後の住所)」を基準に管轄が決まります
- 申立書には、不在の状況や必要性を具体的に記載します
- 補充資料の提出や、事情の照会が行われることがあります
- 候補者(弁護士や司法書士など)を記載するケースもあります
- 選任された管理人に、決定の正本が送達されます
- 管理人は就任の承諾後、具体的な業務に入ります
- 不在者財産管理人が、他の相続人と協議します
- 重要な財産(不動産の売却など)については、別途裁判所の許可が必要になります
申立ての際には、一定額の「予納金(管理人の報酬や手続き費用の前払い)」を裁判所に納める必要があります。金額は事案の内容や財産の規模によって変わりますので、事前に家庭裁判所や専門家に確認しておくと安心です。
不在者財産管理人が選ばれたあとの遺産分割の進め方
不在者財産管理人が選任されると、行方不明の相続人の持分については、その管理人が窓口になります。
- 他の相続人が、遺産の内容や分け方の希望を管理人に伝える
- 管理人は、不在者の利益を考慮しつつ、協議案を検討する
- 全体として公平な内容であれば、管理人も協議書への署名押印に応じる
というイメージです。
ただし、
- 不動産を売却して換金する
- 不在者の持分を他の相続人が買い取る(代償分割)
といった「不在者の財産を減らす可能性がある行為」の場合、管理人の判断だけで進めることはできません。
このような場合には、
- 家庭裁判所に「行為許可」の申立てを行う
- 裁判所が、内容が不当でないか、不在者の利益が守られているかをチェックする
というステップを経ることで、手続きの適正が担保されます。
他の相続人としては、「自分たちにとって有利かどうか」だけではなく、「不在者にとっても不当に不利ではないか」という視点も必要になる点に注意が必要です。
行方不明の相続人を無視して分けてしまうリスク
「どうせ戻ってこないから」「連絡が取れないのは自己責任だから」と考え、行方不明の相続人を抜きにして勝手に遺産を分けてしまうケースも現実にはあります。
しかし、このような対応には次のようなリスクがあります。
- 後日、不在者が現れたときに、遺産分割協議自体が無効と主張される
- 不在者から損害賠償や持分の返還を求められる
- 不動産の名義変更や売却が法務局で受け付けられない
一度トラブルが起きてしまうと、話し合いでは収まらず、訴訟に発展することも少なくありません。
「多少手間はかかっても、きちんとした法的な手続きを踏む」
ことが、将来の紛争予防という意味では最もコストが低い選択肢になることが多いです。
行方不明の相続人がいる典型的な事例
ここでは、実際によくあるケースをイメージしていただくために、地域名を交えた事例をご紹介します(実際のご相談内容を一般化したものです)。
事例1:東京都新宿区・兄弟の一人が若い頃に家出したケース
新宿区在住のAさんの父が亡くなり、相続人はAさんと弟Bさんの2人でした。ところが、Bさんは20年以上前に家を出たきり音信不通。戸籍や住民票の附票で調べても、転居先は分かりませんでした。
Aさんは、「父名義の自宅を売却して老朽化した自宅の建て替え資金にしたい」と考えていましたが、Bさん抜きでは遺産分割協議ができません。
そこで、Aさんは東京家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申し立て、選任された弁護士がBさんの代理人として協議に参加。
裁判所の行為許可も得たうえで自宅を売却し、売却代金のうちBさんの取り分相当額を管理人が保管する形で、手続きが完了しました。
事例2:神奈川県川崎市・海外在住の相続人と連絡が取れないケース
川崎市のCさんの母が亡くなり、相続人はCさんと妹Dさん。Dさんは数年前に海外移住しており、メールも電話もつながらない状態でした。
このままでは相続税の申告期限(通常10か月)に間に合わないため、Cさんは不在者財産管理人の活用を検討。家庭裁判所に申立てを行い、選任された管理人がDさんの代理人として遺産分割協議書に署名しました。
その後、Dさんと連絡が取れた段階で、管理人からDさんへの精算も行われ、結果として大きなトラブルなく手続きが完了しました。
専門家に相談した方がよいタイミング
行方不明の相続人がいるケースでは、
- どこまで探せば「行方不明」と言えるのか
- 不在者財産管理人と「失踪宣告」はどう違うのか
- 相続税の申告や不動産の名義変更の期限に間に合うのか
- 誰が申立てをするのが良いのか(代表者・他の相続人・第三者など)
といった判断を、個人だけで行うのは難しいことが多いです。
また、事前の調査の仕方や、申立書の書き方ひとつで、家庭裁判所の判断や手続きのスピードが変わることもあります。
「行方不明の相続人がいるかもしれない」と気づいた段階で、一度専門家に相談しておくと、その後の方針が立てやすくなります。
行方不明の相続人がいてお困りの方へ(ご相談のご案内)
司法書士シエンでは、
- 相続人の調査(戸籍収集や相続関係説明図の作成)
- 行方不明の相続人がいる場合の方針整理
- 不在者財産管理人選任申立てに必要な書類作成のサポート
- 不動産の相続登記や、その後の売却・名義変更に関するご相談
など、相続手続きを一貫してサポートしています。
東京都新宿区の事務所での対面相談はもちろん、Zoomなどを利用したオンライン相談にも対応しておりますので、遠方にお住まいの方や、お仕事でお忙しい方でもご利用いただけます。
相続人が行方不明で手続きが止まってしまっている方は、お一人で抱え込まず、ぜひ一度ご相談ください。状況を丁寧にお伺いし、裁判所の手続きも見据えた現実的な選択肢をご一緒に整理していきます。