「億ション」が当たり前の東京、政治が語りたがらない住宅問題”4つの深層”

導入部:問題提起

東京23区の新築マンション価格が、2025年には前年比21.8%増の1億3613万円に達する──。この予測が示すように、もはや「億ション」は特別なものではなくなりました。多くの人にとって、都心に住まいを持つことは「手の届かない夢」となりつつあります。

この深刻な住宅問題は、来る衆院選の大きな論点の一つです。各政党は様々な対策を公約として掲げていますが、その裏には、より本質的で、しばしば見過ごされがちな構造的問題が潜んでいます。本記事では、その中でも特に重要な4つの深層を掘り下げ、問題の核心に迫ります。

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1. 「外国人の投機」は悪者か? 政治が頼るシンプルな”敵”

衆院選の公約を見ると、自民党は「首都圏などの投機的売買の抑制」を、日本維新の会も「外国人・外国資本による土地取得規制」を掲げています。価格高騰の原因を「外国人による投機」という外部要因に求めるこの構図は、有権者にとって分かりやすい”敵”を設定し、複雑な国内問題から目を逸らせる古典的な政治手法です。

しかし、この対策だけで問題が解決するほど単純ではありません。不動産価格の上昇は、投資マネーの流入だけでなく、人手不足による人件費の上昇、資材費の高騰、都市部における大規模物件用地の枯渇、そして利便性を重視する共働き世帯の増加といった、複数の構造的要因が絡み合った結果です。この問題の核心について、三井住友トラスト基礎研究所の大谷咲太氏は、次のように構造的な問題を指摘しています。

根本的には東京にどんどん人が流入して需給が逼迫していることが背景にある

特定の誰かを”敵”に仕立て上げる対症療法では、東京への「人口一極集中」という根深い需給問題は解決しないのです。

2. 良かれと思った支援策が、逆に家賃を押し上げる皮肉

一方で、家計への直接支援を訴える政党もあります。中道改革連合は「若者・子育て世帯への家賃補助」を、国民民主党は「家賃控除制度」を公約に掲げています。これらは、目の前の住居費負担を和らげるため、政治的には非常に人気のある政策です。

しかし、ここには経済政策の典型的な罠が潜んでいます。これは典型的な「需要サイドへの補助金」であり、供給が限られている市場で需要だけを刺激するものです。結果として、多くの人がより高い家賃を支払う能力を持つことになり、賃貸相場全体が押し上げられてしまうリスクを内包します。善意から生まれた政策が、供給不足という根本原因を放置したまま、意図せずして家賃インフレを加速させるという皮肉な結末を招きかねません。

3. カナダも導入した「空室税」は、万能薬ではなかった

投機的な不動産保有を抑制する切り札として、国民民主党が公約に盛り込んだのが「空室税」です。これは、居住目的でなく投機目的で住宅を空き家のままにする所有者に対し、自治体が税金を課す制度です。

カナダのトロント市では2022年から同様の「空き家税」が導入され、現在では物件の評価額の3%という高率が課されています。しかし、人口流入が続く同市では、住宅価格は依然として高止まりの状況が続いています。

トロント市の事例は、大谷氏が指摘する「需給の逼迫」という根本原因を無視した対症療法がいかに限定的な効果しか持たないかを如実に示しています。「税による対策は焼け石に水だ」という同氏の見解を裏付けるように、需給の巨大なアンバランスの前では、税による市場コントロールには限界があるのです。

4. 本当の解決策は足元に? 57万戸の”お宝空き家”という衝撃の事実

これまで議論の多くは、「どうやって新しい住宅を供給するか」という点に集中してきました。しかし、本当に目を向けるべきは、足元に眠る膨大な既存資産かもしれません。

国土交通省の調査によると、駅から1キロメートル圏内にあり、かつ十分な耐震性能を持つ利用可能な空き物件が、全国に「57万戸」も存在するという衝撃の事実が明らかになっています。全国には実に386万戸もの活用可能な空き家があるのです。

私たちは、気づかないうちに膨大な「お宝」を眠らせています。問題は、新築住宅が足りないことだけではありません。むしろ、これまでの新築供給に偏りがちだった住宅政策そのものを見直し、これらの未活用住居をいかにして適正価格の住宅として市場に流通させていくか。その視点こそが、今まさに求められています。

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結論:未来への問い

東京のマンション価格高騰は、外国人の投機や資材費の上昇といった個別の要因だけで語れる単純な問題ではありません。その根底には、東京への「人口一極集中」という需給の歪みと、これまで続けてきた「新築中心の住宅政策」という、2つの大きな構造的課題が存在します。

驚くべきことに、政府の推計では2050年までに東京23区の大半が人口減少に転じると予測されています。現在の住宅不足への対応に追われる一方で、長期的には余剰が生まれるという矛盾。この事実を踏まえるならば、解決策は明らかです。

政治が短期的な対症療法に終始する中、真の解決策は私たちの足元に眠っている。問われているのは、”新築を建て続ける”という過去の成功体験から脱却し、”今ある家を賢く使いこなす”という未来へ、社会全体で舵を切る覚悟があるかどうかだ。

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