遺言

遺言書が動画になる?知らないと損する、相続の未来を変える3つの大変革

2026-01-31

はじめに

「遺言」と聞くと、多くの人が厳かな書斎で筆をとり、署名の下に朱肉の印鑑を捺す、そんな伝統的な光景を思い浮かべるかもしれません。しかし、私たちの生活がスマートフォンやビデオ通話、電子署名で成り立っている現代において、その古風なイメージは本当にふさわしいのでしょうか?

実は今、日本の法制度の舞台裏で、この「遺言」のあり方を根本から覆すかもしれない、大きな議論が交わされています。この記事では、法制審議会で検討されている、私たちの相続の未来に直結する、特に驚くべき3つの変革案を分かりやすく解説します。

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1. 「遺言動画」が法的に認められる時代へ

現在検討されている最も革命的な変更案が、「録音・録画」による遺言の作成を認めるというものです。これは単一のアイデアではなく、遺言者の選択肢を広げるため、主に二つの方式が提案されており、パブリック・コメントでも多くの支持を集めました。

一つは、**証人の立ち会いのもとで privately に記録する方式(甲案)**です。遺言者が一人以上の証人の前で遺言の全文を口述し、その様子を映像や音声で記録するもので、より手軽で柔軟な利用が想定されます。

もう一つは、**法務局などの公的機関で記録・保管する方式(丙案)**です。遺言者が公証役場のような公的機関に出向き、職員の前で遺言を口述、その記録を公式に保管してもらうもので、 notarized will のように高い安全性と信頼性が担保されます。

この変革が目指すのは、アクセシビリティの向上という政策目標です。病気や身体的な理由で自筆が困難な人でも、自分の言葉で直接、遺志を遺せるようになります。ただし、「本当に本人の意思なのか」「映像が偽造されるリスクはないのか」といった記録の真正性をどう担保するかが、この制度が実現するための重要な鍵となります。

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2. 遺言書の「脱ハンコ」は是か非か?ゆれる伝統と合理性

もう一つの大きな論点が、自筆証書遺言における「押印」義務の廃止です。行政手続きなどで進む「脱ハンコ」の流れを、遺言の世界にも適用しようという提案が、デジタル化と効率性を求める声に応える形で出ています。

しかし、この提案には法曹界から根強い慎重論も出ています。特に、遺言という行為の特殊性を重く見る意見が際立っています。

遺言のように、本人の死後にその真意を確認することができない一方的な意思表示についてまで押印を不要とすることは、安易な時流に乗っただけで合理性を欠くものではないか。

この反対意見の根底には、ハンコは単なる伝統ではないという考えがあります。押印という物理的な行為は、遺言者の「軽率な判断」を防ぎ、これが「最終的かつ熟慮された意思」であることを確認させるための、一種の「冷却期間」として機能してきたというのです。本人が亡くなった後ではもう誰もその真意を問うことができない、この一方的な法律行為において、手続き上のセキュリティをどこまで重視するか。この議論は、現代社会が求めるデジタル効率性と、伝統的な手続きが持つ重みとの間で、日本社会が直面する大きな緊張関係を象徴しています。

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3. 「うっかりミス」が命取りにならない?より柔軟になる証人ルール

これまでの法律では、遺言を作成する際の証人ルールは非常に厳格でした。例えば、遺産を受け取る予定の「受遺者、その配偶者、及び直系血族」といった利害関係者がうっかり証人になってしまうと、そのたった一つのミスで遺言書全体が無効になるという、極めて厳しい規定がありました。

この問題に対し、より柔軟で現実的な解決策が提案されています。新しい案では、もし利害関係者が証人になったとしても、遺言全体が無効になるわけではありません。無効になるのは、その証人が利益を受ける部分のみに限定され、遺言の他の部分は有効なまま残る、というものです。

この変更は、単なる手続きの緩和ではありません。法律の哲学が、「形式的な過ちを罰する」ことから、「遺言者の最終的な意思をできる限り尊重する」ことへとシフトしていることの明確な表れです。より現実的で、人々の想いに寄り添う法制度への転換点と言えるでしょう。

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おわりに

人生の終焉という最も重要な瞬間のための文書である遺言書。そのあり方が、新しいテクノロジーや社会の変化に合わせて、今まさに大きく変わろうとしています。

あなたの最後の想いを、最もあなたらしく伝える方法は、紙とペンでしょうか?それとも、未来のテクノロジーでしょうか?この法改正の議論は、私たち一人ひとりにその問いを投げかけています。

2025年10月スタート!オンライン公正証書遺言を自宅から作る前に必ず知っておきたい4つのポイント

2026-01-25

公正証書遺言は、「残された家族の争いを防ぐ」という意味で、もっとも信頼性の高い遺言の形です。
2025年10月1日からは、その公正証書遺言を含む公正証書の作成手続きがデジタル化され、条件を満たせば自宅などからオンラインで作成できる制度が始まりました。

ただし、「オンライン=簡単・スピーディー」と思ってしまうと危険です。

結論からお伝えすると、

  • 準備の負担や法的な注意点は「対面方式」とほとんど変わらない
  • むしろ機材・環境・遺言能力の確認など、新たに気をつけるポイントが増えている
  • 「オンラインでできるから、とりあえず軽く作っておこう」という感覚で臨むと、後で無効主張の火種になりうる

というのが専門家としての実感です。

この記事では、

  • オンライン公正証書遺言が「どこまで便利」で「どこから大変」なのか
  • どんな人に向いていて、どんな人はあえて対面方式を選んだほうがいいのか
  • 有効な遺言にするために、今のうちから準備しておきたいこと

を、「意外と知られていない4つのポイント」に分けて分かりやすく解説します。
東京都新宿区周辺で終活・遺言を考えている方はもちろん、「地方の親の遺言をオンラインで作れないか」とお考えのご家族にも参考になる内容です。

1.オンラインでも「即日でサクッと」は無理。準備期間はこれまで通り必要

デジタル化と聞くと、

  • 予約して
  • その日にオンラインでつないで
  • 1時間くらい話したら、その場で全部完了

というイメージを持たれる方が少なくありません。

ところが実務的には、準備にかかる時間は対面方式とほとんど変わりません。

公証人とのウェブ会議そのものは、対面と同じくおおむね1時間程度です。
しかし、その前に必要なプロセスはオンラインでも変わりません。

例えば、こんな流れです。

  • どの財産を誰にどう引き継がせたいか、家族構成や思いを整理する
  • 専門家(司法書士など)と相談しながら、遺言の方針・文案を固める
  • 公証役場と日程調整を行い、必要書類を揃える
    • 戸籍謄本・除籍謄本・住民票
    • 不動産登記簿謄本
    • 登記事項証明書、固定資産税評価証明書 など

この「相談~文案作成~書類収集」に、少なくとも2週間~1か月前後かかるのが現実です。

実際、当事務所にご相談いただく方でも、
「急に体調を崩した親のために、1週間以内にオンラインで遺言を作りたい」
というご希望をいただくことがありますが、内容の検討や書類の取り寄せを考えると、オンラインだからといって劇的にスピードアップできるわけではありません。

オンライン公正証書遺言の一番のメリットは、

  • 高齢や病気で外出が大変な方
  • 公証役場までの距離が遠い地方在住の方
  • 東京に住む子どもが、地方の親の遺言作成をオンラインでサポートしたい場合

といったケースで、移動の負担と時間を減らせることです。
「思い立ったらすぐ、その日中に作れる」というスピード感を期待すると、肩透かしを食う制度だと理解しておきましょう。

2.スマホ&カフェでは絶対NG。オンライン遺言には意外と厳しい「環境と機材」の条件

「Zoom会議みたいなものなら、スマホ片手にどこからでもできるのでは?」

ここが、多くの方が勘違いしやすいポイントです。
オンラインで公正証書を作成する“リモート方式”には、法務省・日本公証人連合会の資料でかなり細かい技術要件・環境要件が定められています。

代表的なものだけ挙げると:

  • 使用できるのはパソコンのみ(スマホ・タブレットは不可)
  • OSは Windows10/11 または最新3バージョン以内のMacOS
  • Web会議に対応したカメラ・マイクが必要
  • 電子サインを行うための
    • タッチ入力ができるディスプレイ、または
    • ペンタブレット+電子ペン
  • 参加するパソコンでメールを受信できること(招待URLや電子サイン用ファイルをやり取りするため)

さらに、場所の条件も見逃せません。

  • 原則、自宅などの「個室」から参加すること
  • カフェ・コワーキングスペース・病室の大部屋など、第三者の出入りがある場所はNG
  • バーチャル背景は禁止。公証人がカメラ越しに「部屋の状況」を確認し、遺言者の意思決定に不当な影響を与える人物がいないかチェックする

要するに、
スマホ1台で、カフェからサクッとオンライン遺言――という使い方は制度の想定外です。

また、リモート方式は、

  • 嘱託人(遺言をする本人など)がリモート利用を希望していること
  • 公証人が「リモートでも本人確認・真意確認が十分にできる」と判断したこと

という要件を満たした場合に限られます。
さらに、2025年10月1日時点では、全国すべての公証役場で利用できるわけではなく、「指定公証人」のいる役場から順次スタートする予定です。

オンラインでの作成を希望する場合は、

  • 自分のエリアでどの公証役場がリモート対応なのか
  • 必要な機材を用意できるのか

を、早めに専門家経由で確認しておくとスムーズです。

3.デジタルでも「絶対に無効にならない」わけではない――最大の争点はやはり「遺言能力」

「公証人が関わる公正証書遺言なら、オンラインで作ればなおさら完璧に近いのでは?」
ここにも、注意すべき落とし穴があります。

公正証書遺言は、自筆証書遺言に比べると方式の不備で無効になるリスクは低いものの、

  • 遺言者に「遺言能力」がなかった
  • 証人の要件を満たしていなかった
  • 公証人への口授(口頭で内容を伝えるプロセス)が足りないと判断された

といった理由で、裁判で無効と判断されることも実際にあります。

オンラインになっても、この基本構造は変わりません。

特に重要なのが「遺言能力」です。

  • 遺言の内容を理解し、その結果を自分で判断できるだけの力があったか
  • 認知症の進行状況や、服薬の影響で判断力が大きく落ちていなかったか

といった点について、医療記録(カルテ)や診断書をもとに相続開始後に争われる余地は、今後も残ります。

リモート方式では、公証人が画面越しに遺言者の様子を確認しますが、
対面よりも「その場の空気感」や細かな変化が伝わりにくいのは否めません。

オンラインで公正証書遺言を作る場合ほど、

  • 必要に応じて主治医の診断書や意見書を用意しておく
  • 遺言を作るに至った経緯や家族への思いを、別途「付言事項」やメモなどに残しておく

といった「証拠の積み増し」を意識しておくことが、将来の紛争予防として重要になってきます。

4.手続きは新しくても、裁判所が見るポイントは変わらない――最高裁判例が示す「真意重視」の考え方

オンライン公正証書遺言の法的効力は、紙で作成した従来の公正証書遺言と同じです。

  • 家庭裁判所での「検認」は不要
  • 原則として、形式面の不備で無効になるリスクは低い

といったメリットも、そのまま引き継がれます。

一方で、どのような場合に無効か、有効かという判断枠組みは、これまでの判例法理がそのまま活きてきます。

代表的なものとして、最高裁平成13年3月27日判決があります。

この判決では、

  • 公正証書遺言作成の場に、本来は証人になれない人(相続人など)が同席していた
  • それでも、法律上必要とされる証人2名は適格であり
  • 同席していた人によって遺言内容が左右されたなどの「特段の事情」が認められない

という事情のもとで、遺言は有効と判断されました。

ここから読み取れる大切なポイントは、
裁判所は「形式だけ」を見ているわけではなく、
「遺言者の真意がきちんと反映されているか」を実質的に重視しているということです。

オンライン化によって、

  • ウェブ会議の録画
  • 電子データとしての経緯の保存

など、「後から検証できる客観的な手がかり」が増える側面もあります。
だからこそ、

  • 公証人に伝える内容
  • 事前に専門家と整理しておく事情
  • 同席する証人や家族の関わり方

といった「プロセスの質」が、今まで以上に大切になります。

オンラインで作るか・対面で作るかを決める前に確認したいチェックポイント

オンライン公正証書遺言は、

  • 公証役場が遠い
  • 身体が不自由で移動が難しい
  • 忙しくて何度も外出できない

といった方にとって、とても心強い新しい選択肢です。

ただ、「便利になった=簡単になった」わけではありません。

むしろ、

  • 機材・環境のハードル
  • 遺言能力をめぐる将来の紛争リスク
  • データ化された手続きだからこそ、プロセスの説明責任が重くなること

を踏まえると、専門家と一緒に設計していく重要性は、以前よりも増しています。

オンラインか対面かを決める前に、次のような点を一度確認してみてください。

  • 自分(または親)の体力・健康状態から見て、どの方式が負担が少ないか
  • 必要なパソコンや機材を無理なく用意できるか
  • 認知症や持病など、将来「遺言能力」が争われそうな要素がないか
  • 家族にどこまで内容を共有しておくか(付言事項やビデオメッセージ等も含めて)

東京都新宿区北新宿の「司法書士シエン」では、

  • 対面の公正証書遺言
  • オンライン公正証書遺言(リモート方式)

のいずれについても、「法」と「お金」の両面から、事前設計と公証役場とのやり取りを一括サポートしています。
「うちの親の場合、オンラインと対面どちらがいいのか?」といったご相談からでも構いませんので、気になる方は早めにご相談ください。

執筆者情報
司法書士シエン
東京都新宿区北新宿1丁目8番22号斎藤ビル102
坂大一雄(ばんだいかずお)
・司法書士
・1級ファイナンシャルプランナー
・上級相続診断士
・民事信託士

相続・遺言・家族信託を中心に、「法」と「お金」の両面から、
ご家族が円満に次の世代へバトンを渡せるようお手伝いしています。

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