民事信託
民事信託は「万能」じゃない?専門家が語る、意外と知らない5つの落とし穴と心構え

老後の資産管理やスムーズな事業承継の切り札として、近年注目を集めている「民事信託」(家族が受託者となるケースが多いため「家族信託」とも呼ばれます)。柔軟な財産管理を実現できる現代的な制度として、その活用を検討する方が増えています。
しかし、一見すると万能に見えるこの制度には、専門家の間でも慎重な議論が重ねられる、一般にはあまり知られていない側面が存在します。法的に正しく契約書を作成しただけでは、本当に望む結果が得られるとは限らないのです。
本記事では、司法書士向けの専門研修会で語られた内容を基に、民事信託を成功に導くために本当に重要な5つのポイントを解説します。単なる手続き論に留まらない、制度の本質に迫る専門家の視点をご紹介します。

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1. 法的に完璧でも「無効」に?公序良俗という見えない壁
信託契約書が法的な要件をすべて満たし、完璧に作成されていたとしても、その契約が無効と判断されるケースがあります。その理由は、契約内容が「公序良俗」に違反していると見なされるためです。
例えば、特定の相続人の「遺留分」(法律で保障された最低限の相続分)を侵害することだけを目的として設計された信託は、社会的な倫理観や秩序に反するとして認められない可能性があります。遺留分制度は相続人間の公平を保つための基本的な仕組みであり、これを意図的に骨抜きにする行為は、たとえ形式上は合法でも、制度の根幹を揺るがすものとして無効と判断されるのです。これは、民事信託の組成には法律知識だけでなく、家族全体の幸福を願う高い倫理観が不可欠であることを示しています。
2. 主役は本人だけじゃない。家族円満のための「巻き込み力」の重要性
法的な正しさだけでなく倫理観が問われるのは、信託が「人」、特に家族の関係性の中で機能する制度だからです。その視点から次に考えるべきは、当事者以外への配慮です。民事信託というと、財産を託す「委託者」と利益を受ける「受益者」にばかり目が行きがちですが、制度を円滑に機能させ、将来のトラブルを防ぐためには、より広い視野が求められます。
重要なのは、信託契約の内容を受益者以外の家族にも丁寧に説明し、理解を得ておくことです。なぜこの信託を組むのか、その目的と仕組みを共有することで、後の紛争を予防できます。また、専門家の重要な役割として、財産を引き受ける「受託者」に対して信託内容やその責任を十分に説明し、理解を促すことも挙げられます。民事信託の成功は、当事者だけでなく、関係する家族全員の協力があって初めて成り立つものなのです。
3. 税金対策のつもりが…。不動産信託に潜む「空き家譲渡の3千万円控除の特例」が使えない罠
民事信託は資産承継のツールとして有効ですが、税務上の落とし穴も存在します。特に注意したいのが、不動産を信託した場合の相続税です。
信託財産に含まれる居住用の不動産は、相続が発生した際に、相続税の評価額を大幅に減額できる「空き家譲渡の3千万円控除の特例」を適用することができません。これは非常に大きなデメリットであり、この特例の適用を前提に資金計画を立てていた場合、計画が大きく狂ってしまう可能性があります。民事信託が必ずしも最善の節税策になるとは限らないことを示す、典型的な例です。
4. 書類作りだけが仕事じゃない。専門家は金融機関との「調整役」でもある
司法書士のような専門家の仕事は、信託契約書を作成するだけではありません。むしろ、その周辺業務にこそ真価が問われます。特に重要なのが、関係各所との「調整役」としての役割です。
信託した金銭を管理するための口座開設など、金融機関との連携は不可欠ですが、その手続きは単純ではありません。専門家は、依頼者に代わって金融機関との交渉や調整を行い、手続きをスムーズに進めるコーディネーターとしての役割を担います。また、最初の相談段階で、本人の状況によっては民事信託ではなく成年後見制度など他の法的手段が最適解である可能性も探ります。包括的な視点から最適な解決策を提案することこそ、専門家の重要な責務なのです。
5. 民事信託は「みんなで育てる子ども」。悪用を防ぎ、良い制度にするために
専門家たちは、民事信託という制度を非常に示唆に富んだ言葉で表現します。それは、この制度がまだ発展途上であり、慎重に扱わなければならないという強い想いの表れです。
みんなで育てていかなければならない子ども
この言葉は、民事信託が紛争や不正利用につながる「悪い子」にならないよう、専門家、そして社会全体で守り育てていく必要があるというメッセージです。制度のメリットだけを強調して安易に利用するのではなく、その本質を理解し、依頼者の意思を実現する「良い子」として活用していく責務があるのです。
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結論
ここまで見てきたように、民事信託は強力なツールである一方、その成功は単なる法律知識や書類作成技術だけでは保証されません。倫理観、家族全体への配慮、税務上の知識、そして関係機関との調整能力といった、総合的で血の通ったアプローチが不可欠です。
最後に、この記事を読んだあなたに問いかけたいと思います。「ご自身の将来を考えるとき、法的な書類だけでなく、家族全体の幸福という大きな絵図を見据えていますか?」

坂を負う人にまず寄り添い、大切な想いを明日の形へつなぐ司法書士(文鳥をこよなく愛しています)。
東京都新宿区・中野区を中心に、司法書士/1級ファイナンシャル・プランニング技能士/民事信託士/上級相続診断士の4つの視点を持つ専門家として活動しています。
法務と資金計画の両面から、ご家族の「安心」と「納得」をワンストップでサポート。対面相談を大切にしつつ、オンラインで「東京の実家・不動産」に関する全国からのご相談にも対応しています。
相続・生前対策は、ご家族ごとの状況整理が解決への第一歩です。
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