
東京の家賃は上がり続けている──多くの人が肌で感じていることではないでしょうか。しかし、その背景には、あまり知られていない賃貸契約の形態、「定期借家(ていきしゃっか)」の急増という、静かな地殻変動が起きています。この記事では、今まさに東京の賃貸市場で何が起きているのかを、データと共に解説します。

1.静かなる主流化。東京23区、賃貸の1割が「定期借家」という現実
まず注目すべきは、その驚異的な増加スピードです。LIFULL HOME’Sのデータによると、東京23区の賃貸マンションに占める定期借家の比率は、2025年には10.0%に達しました。2023年には5.8%、それ以前は長らく5%前後で推移していたことを考えると、これはまさに「急増」です。これは、これまで安定していた賃貸市場の契約慣行が、経済情勢の変化を受けて根本から変わりつつあることを示す重要な指標です。
この傾向は、港区や千代田区など交通の便がいい都心部の築浅物件を中心に特に顕著です。例えば渋谷区では、2024年の11.7%から18.9%へと大きく比率を伸ばしています。
そもそも「定期借家」とは、2年などと契約期間があらかじめ決められている賃貸契約です。期間が満了すると、住人は退去するか、あるいは家主が提示する新しい条件で再契約を結ぶ必要があります。期間満了後に退去を迫る可能性がある分、定期借家の家賃は一般的な物件よりも低めに設定されやすいという特徴があります。
2.インフレ時代、家主の「切り札」に。なぜ今、定期借家なのか?
もともと定期借家制度は、転勤などで一時的に持ち家を貸し出すケースで利用されることが一般的でした。しかし今、その位置づけは大きく変わり、物価上昇時代を乗り切るための家主側の戦略的な「切り札」として活用が広がっています。
最大の理由は、インフレへの防衛策です。一般的な賃貸契約では、家主が一方的に家賃を上げることは法律上難しくなっています。しかし定期借家であれば、契約更新のタイミングで、家主はより自由に家賃を設定し直すことが可能です。2022年以降、物価上昇が定着し、物件の修繕に必要な資材費や人件費も高騰しています。これに加え、ローンを組んで投資用物件を運用する家主にとっては、金利上昇による利払い費の増加も無視できません。
さらに、コロナ禍で借り手が見つからず、やむなく家賃を下げた物件のオーナーが、当時の収益悪化分を取り戻そうとする動きもこの流れを後押ししています。こうした複数のコスト上昇圧力に直面する家主にとって、当初の家賃を多少低めに設定してでも、数年ごとに柔軟に価格を見直せる定期借家のメリットが、かつてなく大きくなっているのです。
3.家賃は「安定資産」ではなかった?31年ぶりのインフレが示す未来
定期借家の増加がもたらす最も大きな影響は、家賃インフレの加速です。これまで価格変動が小さい「安定資産」と見なされてきた家賃ですが、その常識は覆されつつあります。
総務省の消費者物価指数によると、2025年12月の東京都区部の「民営家賃」は、前年同月比で2.0%上昇し、実に31年ぶりに2%台に達しました。この背景には、新築・中古マンションの価格高騰によって購入を諦めた層が賃貸市場にとどまり、需要が高まっているという要因もあります。貸し手市場が強まる中で、定期借家の増加は家賃上昇にさらに拍車をかける可能性があります。
LIFULL HOME’S総研の中山登志朗チーフアナリストは、この状況に警鐘を鳴らします。
都心部を中心に家賃のインフレを助長し、社会問題になりかねない。
この言葉が示す「社会問題」とは、単に家賃が上がることだけを指すのではありません。これまで固定的で予測可能だった家賃という家計の支出項目が、市場動向によって変動する不安定なものに変わってしまうことを意味します。これは、立場の弱い借り手の生活設計に大きな影響を及ぼしかねない、構造的な変化なのです。
東京の賃貸市場で進む「定期借家」の増加は、物価上昇という経済状況に対する家主側の合理的な防衛策です。しかしそれは同時に、都心部の家賃インフレを加速させ、借り手の負担と生活の不確実性を増大させる大きな要因となっています。
賃貸市場のパワーバランスが変化するなか、東京で暮らす借り手にとって、住まいの未来はどのように変わっていくのでしょうか?

坂を負う人にまず寄り添い、大切な想いを明日の形へつなぐ司法書士(文鳥をこよなく愛しています)。
東京都新宿区・中野区を中心に、司法書士/1級ファイナンシャル・プランニング技能士/民事信託士/上級相続診断士の4つの視点を持つ専門家として活動しています。
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